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フィルムマフィアの本日のおすすめ

この不寛容な嵐の世の中を、マンボタンゴ号に乗って渡り出す。考察のできないフィルムマフィアの気ままな映画生活。

異物を排除するという人間の本能『遊星からの物体X(1982)』

最近、芥川賞を受賞した村田沙耶香「コンビニ人間」を読み終わりました。すごい作品ですね、これ。ブラックユーモアたっぷりの人間ドラマとでもいうのでしょうか。

 

主人公・古倉恵子は社会の常識というものが理解できずに、36歳になった今でも定職に就かず、恋人もなく、週5のシフトでコンビニのバイトをしています。コンビニにはマニュアルがあるから、自分の考えを通すことなどせず、決められたことだけをこなしていけばいいので、彼女にとっては居心地がいいわけです。そんな生活が延々と続きます。周りの友人たちは「30までには結婚して子供も産んで幸せな家庭を築く」のが幸せだと思っているし、それを実現しています。その考えは現代にしては古臭いし頭弱いなぁとは思うんですが、主人公はその考えに対して概念が古いからとかではなく、そんなことをしていくことに利益や筋を見出せないから「女なら結婚して子どもを産まなくてはいけないんですか?一人でいてはいけないんですか?なんでですか?」と聞き返します。36歳の女性に真顔でこんな問いを急にされたらビビりますね。それで、その場にいた友人たちがドン引きしているのを主人公は感じ取ります。その時、彼女は「今、私は異物になってる」と察します。とりわけ女の社会では異物は排除される、というわけで彼女は今まで異物にならないギリギリのラインで切り抜けてきたのですが、この年で独身フリーターの身はどうも相手の異様を見る目をかわしづらい…といったところでまた話が転がっていきます。

 

この作品を読んでてまず思い浮かんだのが『遊星からの物体X(1982)』『遊星からの物体X ファースト・コンタクト(2011)』というSFホラー映画でした。南極の観察隊が宇宙人に襲われるのですが、宇宙人は人と同化し外見は人間そっくりなので皆が皆、周りに対して疑心暗鬼になっていく心理描写が秀逸です。

 

で、この映画の人物たちの「人間じゃないもの」に対する執念がとんでもないんですね。相手がもはや人間じゃないと分かると、ぎえああああと叫びながら火炎放射を放ちます。迷いは一切ありません。自分の種を守るために、明らかに自分の種と違うと判断したものにどう対処するか。簡単です。殺せばいいのです。殺せば自分に危害は及びませんから。そういった本能からくる異物への恐怖心が描かれています。家の中でゴキブリを見かけて「見たからにはそいつだけでも殺す」と思うのと根本は一緒だと思います。それでもこの映画に出てくるクリーチャーはどれも「出会ったらおれ殺される」感満載のグロくて怖い造形をしてますから、登場人物たちの「悪・即・斬」の精神は分からなくもないですが。

 

この手のモンスター映画は地球外生命体があまり賢くないからこそ「襲われる→死ぬ」の形式のハラハラ感が際立つのですが、賢かったら上手く人間の世界に溶け込んでますよね。それこそ「コンビニ人間」の恵子みたいに。人間と馴染めてさえいられれば、異物として排除されずに済むのになぁと思いつつ。