フィルムマフィアの本日のおすすめ

この不寛容な嵐の世の中を、マンボタンゴ号に乗って渡り出す。考察のできないフィルムマフィアの気ままな映画生活。

シェイクスピアー、シェイクスピアー

今回のおすすめのテーマは「シェイクスピア」です。今年2016年は彼の没後400年ということで、生地イギリスはストラットフォード・アポン・エイヴォンのみならず、世界各地で様々な催しがなされています。奇しくもシェイクスピア劇に情熱を注いだ舞台演出家の蜷川幸雄氏は、今年亡くなられてしまいましたね。

 

 

本日のおすすめ

ロシュフォールの恋人たち(1967)』

ウエスト・サイド物語(1961])』

 

 

まずはフランス映画『ロシュフォールの恋人たち』からおすすめしましょう。

シェルブールの雨傘(1964)』という切ない悲恋を描いたミュージカルの続編です。監督はジャック・ドゥミ、音楽はミシェル・ルグラン、主演はカトリーヌ・ドニューヴと2作連続でタッグを組んでいます。1作目は全編ミュージカルで、始めから最期まで登場人物たちがメロディーに台詞を乗せて歌うという、何とも奇妙珍妙な、ある種の実験的な演出のあるものでした。変わって2作目の本作は歌と台詞の交わるカラフルでポップな、観ていても聴いていても楽しい作品に仕上がっています。

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映画のタイトルを聞いてもピンとこない方が多いかと思われますが、オープニング曲を聞いたことのある方は多いと思います。吹奏楽とかで人気です。

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あらすじ:フランスの港町ロシュフォールでバレエ教師をしている双子姉妹(演じるカトリーヌ・ドヌーヴフランソワーズ・ドルレアックは実の姉妹です)がパリで成功したいと夢見ている中、町のお祭りに合わせてショーの一座が到着します。同じ頃にアメリカ人音楽家が街角に楽器屋を開いた友人を訪ね、町に寄った海軍のいち水兵の青年が理想の女性を求めて休暇を過ごし、女性を狙った殺人事件も起こりつつ、ロシュフォールの人びとはお祭りを心いっぱい楽しむ…そんな感じの物語です。

 

曲の華やかさに負けじとキャストも豪華なのです、この作品。バイクの曲芸師役にジョージ・チャキリス(後述の『ウエスト・サイド物語』にも出演しています)、アメリカ人音楽家にジーン・ケリー(ミュージカル映画に欠かせない偉人です。妥協ない厳しい演出家でもあったようで、そう考えると彼と踊ったフランソワーズ・ドルレアックはさぞ大変だったんだろうなと…)、初々しい水兵にジャック・ペラン(近年は『オーシャンズ(2009)』など動物ドキュメンタリー映画の製作で有名です)、喫茶店の常連にミシェル・ピコリ(名脇役にして映画監督としても活躍しています)とまぁ素敵。

 

この映画は別にシェイクスピア関連の話として製作されたわけではない(はず)のですが、私としてはとってもシェイクスピアの喜劇チックなプロットに見えます。その要素は「すれ違い」と「終わりよければすべて良し(作品ではなく、故事の意味で)」な展開にあります。

 

この映画の主要人物は、皆誰かを想っていてるしその相手はロシュフォールにいるのですが、当の本人にだけはなかなか出会わず恋焦がれているのです。双子姉妹の母親が経営する喫茶店に皆が入れ違うようにやって来て、そこで「すれ違い」が生まれます。「一度見たあのひとはどこかな~♪」と歌って店を出ていくと、その後その女性が店に現れ、ちょっと女性が席を外したその一瞬に彼が忘れ物を取りに戻ってくる…といったもはやコントのような、もどかしいやり取りを終わりまで延々とやっています。シェイクスピアの「お気に召すまま」「から騒ぎ」なんかのように、観客は分かっているのだけど、キャラクターたちには分からない仕掛けといいますか、そういった見せ方が非常に楽しいのです。

 

そしてクライマックスでは全員が恋の迷路から脱出して、それぞれの想い人と出会い、結ばれる。まさに「終わりよければすべて良し」なのです。この勢いのよさといったらジャンプの打ち切り漫画のごとく、シェイクスピア劇でいえば「真夏の夜の夢」「冬物語」のごとくの大円団、なのです。『月の輝く夜に(1987)』という戯曲のような展開の傑作ラブコメディがありますが、この映画も勢いよくハッピーエンドに持ち込んでスカッと終わります。『ロシュフォールの恋人たち』も、スッキリと終わるので、観ていて気分が良くなりますよ。

 

そして2本目は『ウエスト・サイド物語(1961)』です。

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言わずと知れた、「ロミオとジュリエット」を原案としたブロードウェイ・ミュージカルの映画化作品ですね。

 

ニューヨークのウエスト・サイドで、ジェット団とシャーク団という2つの不良グループが衝突しあっては喧嘩しています。そのたびに警官が止めに入るけれども、手のつけようがありません。そしてダンスパーティでマリアとトニー(つまりジュリエットとロミオ)はお互い相手が敵グループの身内と知らずに惹かれあい、彼らのロマンスとグループ間の抗争が絡まっていきます。

 

本作においてはそのまま「シェイクスピアが元ネタ」というものが分かっているので、別の角度からおすすめしてみましょう。

 

監督はロバート・ワイズとジェローム・ロビンス。ワイズは本作と『サウンド・オブ・ミュージック(1965)』でアカデミー賞作品賞と監督賞を受賞しています。そのためにミュージカル映画の巨匠と思われがちなこともあるかと思いますが、手掛けるジャンルはSF、サスペンス、ホラーと多岐に渡っています。

 

私がワイズ監督の作品で鑑賞したことがあるのは『ウエスト・サイド物語』『サウンド・オブ・ミュージック』と『アンドロメダ…(1971)』の3作品だけなのですが、どの作品も映像の構図がダイナミックなんですね。別に爆発音がするわけでもないのに、画にドカーン!という音を感じる、と言いましょうか。最近の映画監督で彼のようにガリッとゴリッとダイナミックに画を撮る人は殆どいないと思います。

 

例えば『ウエスト・サイド物語』では、オープニングから度肝を抜かれます。

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「なんじゃこりゃあ」となるのですが、最後に映画のタイトルが出て、アニメーションから実写に切り替わると「あぁ、マンハッタンのウエスト・サイドの街並みだったんだな」と分かります。

 

そしてマリアとトニーが出会うダンスパーティのシーン。シャーク団とジェット団が居合わせてピリピリと緊張感が漂う中、喧嘩はしてはいけないので両グループはダンスで張り合います。

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このシーン、素晴らしいですよね。細かいカットを繋げているわけでもなく、カメラだってたまに寄っては引いて、をしているだけなのにこの迫力とキレキレ感。チーム間の対立を象徴するロングショットにおける構図の美しさ。人物配置と色彩配置のセンスがずば抜けています。カメラではなく人物(大衆)が大きな動きをすることで大胆にみせることに成功していますね。

 

別にここは批評ブログではなく(以前ディズニーへの文句は言いましたが)映画紹介ブログなので、こういった形で他作品との比較をするのは不本意なのですが、『ヘアスプレー(2007)』でのダンスシーンを見てみましょう。

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曲はノリノリのキラーチューンですし、大勢が踊っているのを見ていて楽しくはなるものの、映像に関していえば、私は上手な画を撮ってはいないと感じます。カットカットカットして色々な人物のショットが挿入されますが、それは本当に必要なショットなのか?ということです。

 

シェイクスピアの話からロバート・ワイズ監督のダイナミックな演出についてお話してみました。ワイズ監督は『サウンド・オブ・ミュージック』のオープニングでも、山々の空撮から丘の頂、人影、ズームアップしてジュリー・アンドリュースが歌いだすショットへ、という大胆な見せ方をしていますね。

映画はもう小さいときから観ていますが、演出や脚本などの面で溜息が出るほど凄いな…と感じるようになったのはつい最近のことです。それまでは「話が面白い、面白くない」だけで善し悪しの判断をしていましたが、話の展開以外にも評価できる面はいくらでもあるんですね。気づきませんでした。恥ずかしい///

先日テレビで『ハリー・ポッターと秘密の部屋(2002)』を観てみましたが、公開当時は「子どもだましのつまんない映画~~」と小生意気な感想を言いふらしていましたが、いざ見直すとこの映画内だけの伏線、シリーズを通しての伏線、そして主人公と宿敵の対比というのが上手~く描かれていて驚きました。凄いぞ、キャストがイギリスの至宝オールスターなだけが取り柄じゃないぞ!と、考えを改めました。

ひとつの作品を何度も見直すよりは新しい映画を観たいタイプなのですが、今回のエントリーを書いていて、当時響かなかった映画を見直すのもいいかもしれないと感じました。うーむ、シェイクスピアはこういう所でも人に影響を与えている…

異物を排除するという人間の本能『遊星からの物体X(1982)』

最近、芥川賞を受賞した村田沙耶香「コンビニ人間」を読み終わりました。すごい作品ですね、これ。ブラックユーモアたっぷりの人間ドラマとでもいうのでしょうか。

 

主人公・古倉恵子は社会の常識というものが理解できずに、36歳になった今でも定職に就かず、恋人もなく、週5のシフトでコンビニのバイトをしています。コンビニにはマニュアルがあるから、自分の考えを通すことなどせず、決められたことだけをこなしていけばいいので、彼女にとっては居心地がいいわけです。そんな生活が延々と続きます。周りの友人たちは「30までには結婚して子供も産んで幸せな家庭を築く」のが幸せだと思っているし、それを実現しています。その考えは現代にしては古臭いし頭弱いなぁとは思うんですが、主人公はその考えに対して概念が古いからとかではなく、そんなことをしていくことに利益や筋を見出せないから「女なら結婚して子どもを産まなくてはいけないんですか?一人でいてはいけないんですか?なんでですか?」と聞き返します。36歳の女性に真顔でこんな問いを急にされたらビビりますね。それで、その場にいた友人たちがドン引きしているのを主人公は感じ取ります。その時、彼女は「今、私は異物になってる」と察します。とりわけ女の社会では異物は排除される、というわけで彼女は今まで異物にならないギリギリのラインで切り抜けてきたのですが、この年で独身フリーターの身はどうも相手の異様を見る目をかわしづらい…といったところでまた話が転がっていきます。

 

この作品を読んでてまず思い浮かんだのが『遊星からの物体X(1982)』『遊星からの物体X ファースト・コンタクト(2011)』というSFホラー映画でした。南極の観察隊が宇宙人に襲われるのですが、宇宙人は人と同化し外見は人間そっくりなので皆が皆、周りに対して疑心暗鬼になっていく心理描写が秀逸です。

 

で、この映画の人物たちの「人間じゃないもの」に対する執念がとんでもないんですね。相手がもはや人間じゃないと分かると、ぎえああああと叫びながら火炎放射を放ちます。迷いは一切ありません。自分の種を守るために、明らかに自分の種と違うと判断したものにどう対処するか。簡単です。殺せばいいのです。殺せば自分に危害は及びませんから。そういった本能からくる異物への恐怖心が描かれています。家の中でゴキブリを見かけて「見たからにはそいつだけでも殺す」と思うのと根本は一緒だと思います。それでもこの映画に出てくるクリーチャーはどれも「出会ったらおれ殺される」感満載のグロくて怖い造形をしてますから、登場人物たちの「悪・即・斬」の精神は分からなくもないですが。

 

この手のモンスター映画は地球外生命体があまり賢くないからこそ「襲われる→死ぬ」の形式のハラハラ感が際立つのですが、賢かったら上手く人間の世界に溶け込んでますよね。それこそ「コンビニ人間」の恵子みたいに。人間と馴染めてさえいられれば、異物として排除されずに済むのになぁと思いつつ。

ヤるかヤられるか・・・刺激たっぷりの擬人化風刺アニメ『ソーセージ・パーティー』!!

タイトルを人気ブログふうにすると、自分が映画ブログを書いていると実感できますね。なんだかやる気が漲ってきてこう、奮い立ってきちゃって…起って…勃っ…

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そんな訳で今回おすすめする映画は、現在限定公開中のソニー・コロンビア配給の『ソーセージ・パーティー(2016)』です。ちなみに本文にタイトルほどの勢いはありませんので悪しからず。そしてネタバレ全開です。ご注意を。

 

監督はグレッグ・ティアナン、コンラッド・ヴァーノン。調べるとティアナン監督はきかんしゃトーマスの作品を数多く手がけてきていて、ヴァーノン監督はドリームワークスのCGアニメ映画に多く携わってきたようです。

 

1900万ドルの低予算アニメということで映像面に関しては期待していなかったのですが、パンのもちもち感や液体やビニールの質感などが本物のようで良い不意打ちを受けました。ディズニーやピクサーのCGアニメが1億ドル以上の予算を費やしているのは映像表現の技術革新への投資を感じますが、本作がここまで低予算で抑えられた要因のひとつに、両監督のCGアニメに対するノウハウがあるのかもしれません。

 

あらすじ:スーパーに並ぶ食品たちが「神様(人間のこと)に選ばれれば白い光(スーパーの自動扉のこと)の先の天国へ行けるんだ!」と信じて買い物かごに入れられることを待ちわびているなか、あるハニーマスタードの瓶が返品扱いで棚に戻されます。彼はひどくおびえ「あそこは天国じゃない!」と言いだしたことをきっかけに、主人公のフランク(ソーセージ)たちは「人間に選ばれたら殺されて食べられる」ことを知り、自分たちの残酷で過酷な運命に立ち向かっていくことになる…

 

こんな感じの作品です。要するにハクスリーの「すばらしい新世界」よろしく、食べ物たちのディストピア映画です。「選ばれれば天国へ行けます」と刷り込まれ、選ばれることを心待ちする無垢なものたちに待ち受けるのは死のみ、という展開はユアン・マクレガー主演のクローンものSFアクション『アイランド(2005)』なんかを思い出します。真実を知った食べ物たちが真実を知りどう立ち向かっていくか、そんなサバイバル要素も『ソーセージ・パーティー』の見どころのひとつでしょう。

 

一方でこの映画の宣伝や口コミなんかはこぞって「下品!」「予想以上に下品!」「この下ネタのひどさはそりゃR-15になるわ!」と、下ネタの情報しか入ってきません。下ネタを強調したほうが受けるし興味が沸くのは分かります。そもそもコメディ映画なのだから私のように「このディストピアの世界観がいいですね」なんて勧めるのも筋違いです。加えて脚本と主演がセス・ローゲンです。声の出演の男性陣の大半はローゲン作品の常連です。そりゃもう下ネタは避けては通れません。しかし今回の作品は今までのローゲン関連作と同様に、やりすぎの下ネタの先に成長物語があるのです。ふざけながらも強いメッセージを描きだす、そんな荒業をこなしているからこそ私は彼が好きですし、本作をおすすめします。

 

たとえばスーパーにいる一般的な食品なんかは人間に対して異常なまでに畏敬の念を抱いています。中にはアルコール飲料のようにクラブ生活三昧の不埒な輩もいますが、多くは「人間は神」「神は絶対」「神は我々を天国へ連れて行ってくださる」と信じて疑いません。なんだか典型的なアメリカ人って感じですね。それに対して主人公のフランクは始めこそそんな感じでしたが次第に「その根拠は?」と、自らの信仰に疑いも持ち始めます。盲目なまでの信仰心に疑念を抱くのは少し無神論者な立ち位置です。ただ、観ていくと彼は無神論者ではなく、ハリウッド的リベラルな人物だということに気付かされます。友だちの短小ソーセージくんがいじめられていると「お前は太い。長ければいいってもんじゃない」と慰めますし、ラバーシュ(中近東のパン)とベーグルが喧嘩していれば「どうして非難ばかりしているんだ、素直に認め合えばいいじゃないか」と諌めます。中東と欧州の移民問題をパンで皮肉った見事なシーンでした(非難ばかりせずに認め合おうというメッセージは、今白熱中のアメリカ大統領選挙戦にも言えることですね。非生産的な泥沼試合はよしなさい、ということです)。また、恋人のパン・ブレンダと意見が対立した時には「女なら男についてこいよ」と主張したためにブレンダが「私は男のお飾りなわけ?」と怒ります。その後ちゃんと彼はこの発言を反省します。ラストの食材の乱交シーンではゲイもレズビアンもストレートも関係なくくんずほぐれつ。「みんな違ってみんな良い」と地でいく、保守的なハリウッドではなくリベラルな側面のハリウッドを色濃く反映した作品だと感じました。

 

このリベラルさは近年のディズニー作品にも通じるものがありますが、私個人としてはディズニーのリベラル性が好きではありません。『アナと雪の女王(2013)』や『ズートピア(2016)』ではディズニー自らが築いてきた固定観念を覆すような、多様性への寛容を強くアピールしています。性や人種への偏見なんか跳ね飛ばそう!といった素晴らしいテーマを扱っています。しかしこの「世相をいち早く作品に反映しなくては」という姿勢は、巨大企業の使命感というよりは、私には評判を良くするための計算高さにしか見えないのですね。優等生の良い子ぶりっ子です。映画界のテイラー・スウィフトとでも言いましょうか。そういった「褒めて褒めて」の駄々はスター・ウォーズやマーベル映画にも見え隠れしていて、なんだかなぁという気がしてなりません。脱線している上にディズニーに愚痴ってしかいないのでついでにもう一つ。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(2016)』が絶賛の嵐ですが、そういう人たちは2時間半の尺の作品の中で何一つ問題を解決させず次回作に持ち越ししていることに疑問はないのでしょうか。これではまるで巨額の予算を掛けて劇場公開用作品にしたTVシリーズのようです。起承転結を一つの映画の中で完結させず、複数に跨がせる。いくらアクションや人物描写が巧みだとはいえ、根本的な組み立てが映画たるべきものとして成立していません。だったら映画館で「ゲーム・オブ・スローンズ」を編集して上映したって変わりません。まぁこういったものは趣味の問題なので、ここまでにしておきます。

 

オチは『モンティ・パイソン・アンド・ザ・ホーリー・グレイル(1975)』『ホーリー・マウンテン(1973)』に勝るとも劣らないメタなオチになっています。この2作を鑑賞済みの方であれば察しがつくとは思いますが。微妙にあやふやな設定も、メタフィクションの部分があるから投げ出しているのかな、とも受け取れます。

 

ギャグでふざけ倒していながらもしれっと強烈な風刺をする作品というのは、製作者の頭の良さを感じられて大好きです。そういう意味で私はリッキー・ジャーヴェイスサシャ・バロン・コーエンが好きなのですが、下ネタに隠された風刺ネタを存分に楽しみたい方は、ぜひ『ソーセージ・パーティー』をご覧になってみては。

Flight of the Conchordsをご存知ですか?

最初のおすすめ映画は、ニュージーランドが生んだコメディデュオ、Flight of the Conchords関連の作品です。

『ザ・マペッツ(2011)』
『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア(2014)』

本題の前に、彼らが主演のドラマFlight of the Conchordsについてお話したいと思います。この番組は2007年くらいにアメリカの有料チャンネルHBO(近年だとゲームオブスローンズが有名ですね)で2シリーズ放送されていました。この作品のヒットで2人は欧米圏で知られるようになりました。

話はニュージーランドからアメリカへやってきた二人が売れっ子ミュージシャンを目指すというもの。頼りないマネージャーと毎朝しなくてもいいバンドミーティングを開き、たまのライブはいつも2,3人の常連しかやって来ない……というお約束を挟みつつオフビートに展開する、30分のコメディ番組です。

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FOTCは顔の濃いジェメイン・クレメント(左)ともじゃもじゃ頭のブレット・マッケンジー(右。いつも動物プリントの変Tを着ているほう)の2人による笑いも取れるミュージシャン、といった感じのデュオです。

この番組では1話に1曲、オリジナル曲が挿入されます。彼らの2枚のオリジナルアルバムには番組で披露したキラーチューンの数々が収録されています。

で、彼らの音楽の何が凄いかと言うと、往年の名曲をパロディにして歌っている点なんですね。戦国鍋TVという数年前の深夜のコント番組に、日本史上の人物がアイドルになってジャニーズやPerfumeっぽい曲を披露するコーナーがありましたが、そんな感じです。ボブ・マーリーデヴィッド・ボウイ、ウエストサイド物語の曲を始め、R&Bからインディポップなど、ジャンルを問わずパロディソングを作って歌っています。その上韻を踏んで言葉遊びまでしちゃう作詞能力の高さ。モノホンの才能です。

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デイヴィッド・ボウイのパロディソング。今年亡くなってしまいましたね…


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戦国鍋TVでのパロディソングの一例。元ネタは修二と彰の「青春アミーゴ」ですかね?



ずいぶん前に第3シリーズは作らないよ、とインタビューで発言していましたが、それを証明するかのように現在ではお互いピンで映画製作に携わっています(ここでようやく本題です)。

まずは『ザ・マペッツ(2011)』からご紹介しましょう。

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こちらはセサミストリートでもお馴染みのマペットキャラクターが主役のミュージカル作品です。この年のアカデミー賞で、動物Tシャツを愛用しているほう・ブレットが最優秀オリジナル歌曲賞を受賞しています。

映画は主役のジェイソン・シーゲルと兄弟のマペットが、昔から自分たちの大好きなTV番組「ザ・マペット・ショウ」の出演者たちが今や落ちぶれている現実を知り、更には彼らのスタジオが売却されてしまう!というわけで、彼らを再結集させてなんとか思い出の番組に復活してもらおうと奮起するお話です。

作中、ジェイソン・シーゲルマペットたちの為に東奔西走していると、彼女のエイミー・アダムスが「私とマペット、どっちが大事なのよッッ!!!」とブチ切れて出て行ってしまいます。その時、そんな板挟みの状態を憂いて歌うのが、ブレットがオスカー受賞を果たした「Man or Muppet」です。

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なかなかの傑作バラードなのですが、韻の踏み方や泣きの入れ方なんかがまんまFOTCの曲と一緒なんですよ。
良いシーンなのに笑わせにきているのかと。多分そういう意図もあるとは思いますが。

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「Pencils in the Wind」というFOTCのオリジナル楽曲。「Man or Muppet」と似てませんか?(笑)


一方でジェメインは母国で『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア(2014)』という、モキュメンタリー・コメディ映画を製作しています。

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地元のTV局が吸血鬼たちを密着取材して彼らの生活を追っていく、という設定の、ユル~いコメディです。
ジェメインもまた、FOTC節を他の作品にしれっと紛れ込ませています。しかもこっちは映画冒頭から速攻「ぐだぐだなミーティング」ネタを出してきています…

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「今日のバンドミーティング!」


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「今日のフラットミーティング!」(4:05辺り~)


FOTCではマネージャー役だったリス・ダービーが、本作では吸血鬼のライバル種族・人狼のリーダー格として出演しています。また、ジェメインは吸血鬼の一人として出演していますが脚本にも携わっています。天然ボケを淡々と突っ込みあうような雰囲気のコメディですが、本作が気に入ればFOTCもきっと気に入りますよ。だって脚本同じ人ですもの!

FOTCのDVDはアメリカ盤DVDしかなく、これだと日本とリージョンコードが異なるので容易に視聴できないのが難点です。YouTubeでクリップとして多数ありますので、まずはそちらを漁ってみてください。

個人的には顔とかボーっとした佇まいからブレットが好きです。かなーーりのチョイ役ですが、エルフ役で『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』シリーズに出演しています。大きな役のある作品ではビデオスルーの『オースティンランド(2013)』に恋の当て馬役で出演しています。ジェイン・オースティンの作品世界観を楽しみながら小説の登場人物になりきれるテーマパークって地味すぎるだろ…とか、少女マンガみたいな脳内お花畑ぇ~な残念な展開とか突っ込みどころ満載なラブロマンス作品です。

ジェメインは役者としてちらほら映画に出ています。『奇人たちの晩餐会 USA(2010)』『メン・イン・ブラック3(2012)』が有名でしょうか。私はどちらも未見ですが。ちなみにジェメインも『ザ・マペッツ2/ワールド・ツアー(2014)』(リッキー・ジャーヴェイスが出演しているやつ)でマペッツ作品に顔を出しています。興味あればこちらも確認してみては。